童話「小さな風」
2024年 12月 20日
あるところに、小さな風の赤ちゃんが生まれました。
そこを偶然通りかかった一羽の白鳥が、風の赤ちゃんをスッとさらい、羽の奥へしまい込みました。
その白鳥は、ずっと群れの中でひとりぼっちだったのです。
白鳥は風の赤ちゃんに毎日毎日、こう語りかけました。
「あなたは白鳥なのよ。ずっとわたしと一緒に旅をしするの」
いつしか小さな風は、自分が風だということを忘れて白鳥だと信じるようになりました。他の白鳥たちと、ともに飛び、ともに食べ、ともに眠りました。
孤独な白鳥は、小さな風と一緒にいられることが嬉しくて、どんどん明るくなっていきました。
しかし反対に⋯⋯
小さな風は、白鳥と同じ言葉を上手にしゃべり同じ動きだってできるようになったのに、どんどん元気がなくなっていきました。きっと何かの病気になってしまったのだと思いました。
ある夜、今まで出会ったことのないような大嵐がやってきました。
白鳥たちは、すさまじい嵐にブルブルと身を寄せ合い、時が過ぎるのを待ちました。みんな怖くて涙を流すものもいました。
その中で風だけが、なぜか心がドキドキワクワクしていました。体の真ん中がうずいて爆発しそうな気持ちでした。
ひとりのやんちゃな風が、白鳥の中でじっとしている風に気づき声をかけました。
「なんで、そんなに小さくなっているの?きみはとてつもなく大きいのに」
「わたしが、小さくなっているというの?」
「きみは風だろう?世界を包む存在だよ」
「世界を包む?」
「おいでよ。一緒にひとつになって飛んでみようよ」
やんちゃな風と一緒に空へ飛び出すと、今まで味わったことのない自分の中の広がりが見えました。それはとても気持ちがよく、すべてがみるみる軽くなってゆくようでした。
やんちゃな風が、たのしくてゲラゲラと大笑いしました。その瞬間、小さな風はくるくるっと回転しました。
世界が突然、はじけたようでした。地上で孤独な白鳥が何かを叫んでいるのが見えました。その周りには白鳥の仲間がたくさんいることが、空の高みから見えました。
「わたしは風⋯⋯だったんだ」
思い出したとたん、自分でも驚くほどのすごい力が湧いてきました。
自分を思いだしたうれしさで、風の目からは空色の涙が、パラパラと地上に落ちていきました。

by loveiysally-4970
| 2024-12-20 12:20
| 童話
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