連載小説「肩書を失くした男」②
2016年 11月 16日
ふと、わたしは、目覚めた。
ぼーっとした頭を丸くさすってみる。一本の白髪もないことが55歳のわたしの自慢だった。髪はふさふさあり、豊かな黒髪の家系に、よく感謝したものだ。
「いったい、ここはどこだ?!」
あたりを、恐る恐る見渡してみる。
たしか・・頭が割れるように痛くて、デスクから倒れたはずだ。深い闇に自分を見失っていく恐怖を思い出し、軽く身震いする。
その黒の世界から、まるで紙芝居を1枚めくっただけのように、今度は光の世界へやってきた。あの体験したことのないピアノ線で縛られる激痛は、遠い昔だったのか、あるいは夢だったのかもしれない。
「きっと、夢を見ていたのだ・・」
わたしは、お気楽に考えてみた。そうだ、思い出してきたぞ。よくみんなから「スーパーポジティブ男」と言われていたじゃないか。わたしの名前は芳賀幸元だ。「ゆきもと」と読む。幸せで元気な男、これが自己紹介の時のお決まり文句だった。
「・・いい香りがする。」
ぼやけていたわたしの視界は、徐々に色彩をとり戻してゆく。目の前に、花が見えた。とても大きな花だ。桃色と純白が美しく溶け合った姿が、いくつも青空に向かっている。この、世にも美しい花は、中年のおじさんのわたしでも知っている。
そうだ、ここは、蓮池だ。
なぜなのかは、わからない・・
わたしは、小さな白いボートの上にいた。なかなか洒落たつくりに不思議と感心してしまう。
そして唐突に、フワッとした綿毛のような声が響いた。
「おとうさん、おひさしぶりだね。」
目の前には、透きとおるような少女が、にっこりと座っていた。
「・・・・・」
わたしは目をこすって、もう一度少女を見つめた。
「さやか・・なのか・・」
少女は明るく笑って、首を小さく縦に2回ふった。
あの時、どんなに神に祈っても二度と会うことが出来なかった、わたしの娘だ。
小学6年生で、思いがけず天国へ旅立ってしまった娘のさやかが、いま目の前で笑っている。
「もしかして、わたしは、死んだのか・・」
☆この小説は、サリーの経験をもとにしたフィクションです。(加筆・修正あり)
中3みるく「漫画のスラムダンクもワンピースも、描いていくうちにどんどん上達しているよね!」
サリー「なぐさめと励まし、ありがとうね・・」
by loveiysally-4970
| 2016-11-16 07:14
| 連載小説「肩書を失くした男」
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